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浦和地方裁判所 平成9年(ワ)2023号 判決 1999年5月14日

原告

藍原忠雄

被告

林めぐみ

主文

一  被告は、原告に対し、一九八万九八二〇円及びうち一七八万九八二〇円に対する平成九年三月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、八一五万三五五〇円及びうち七四一万三五五〇円に対する平成九年三月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告の運転にかかる普通乗用自動車(以下「被告車両」という。)と訴外藍原雄介(以下「雄介」という。)の運転にかかる原告所有の普通乗用自動車(以下「原告車両」という。)との交通事故(以下「本件事故」という。)につき、原告が被告に対し、民法七〇九条に基づき損害倍償を請求した事案である。

一  前提となる事実

1  本件事故は、平成九年三月一六日、午前六時四五分ころ、埼玉県川口市大字長蔵新田三三一番地先路上の交差点(以下「本件交差点」という。)で出会い頭に発生したものである(争いがない。)。

2  本件交差点は、原告車両の進路上に押しボタン式の歩行者用信号機があり、交差する道路上の信号機と連動しており、被告車両の進路上の信号は常時青色を示し、歩行者が押しボタンを押したときだけ赤色に変わる交差点であるから、本件交差点は信号機により交通整理の行われていない交差点である(争いがない。)。

二  争点

1  本件事故の態様

原告は、原告車両を運転していた雄介が、本件交差点で、標識に従い一時停止した後、左右の安全を確認した上進行したところ、左方道路から赤信号を無視して制限速度を一〇キロメートル以上オーバーして進行してきた被告車両が原告車両の左側後部に衝突した旨主張し、被告は、信号無視の事実はなく、本件事故は、雄介が本件交差点で標識に従い一時停止した後、左方道路の安全確認義務及び徐行義務を怠ったことにより発生したものである旨主張している。

2  原告の損害

原告は、本件事故により、次の損害を被ったと主張し、被告は、右損害のうち、代車使用料、積荷の損害及び弁護士費用について争っている。

(一) 車両修理費 一六九万円

(二) 代車使用料 一四万一七五〇円

(三) 車両牽引費 三万七八〇〇円

(四) 積荷の損害 五五四万四〇〇〇円

(五) 弁護士費用 七四万円

以下合計 八一五万三五五〇円

3  過失相殺

被告は、被告車両の進路上の道路は優先道路であり、仮にそうでないとしても広路かつ幹線道路で広路優先となるから、原告について九割の過失相殺を主張している。

これに対し、原告は、被告車両の進路上の道路は、本件交差点において、中央線又は車両通行帯が設けられておらず、優先道路には当たらないし、被告車両が対面信号が赤信号であるにもかかわらず、制限速度を一〇キロメートルもオーバーして本件交差点に進入したこと、被告車両が徐行していた原告車両の左側後部に衝突しており、原告車両の明らかな先入があったことなどから、原告についての過失相殺は、四割にとどめるべきであると主張している。

第三争点に対する判断

一  争点1及び3について

前記前提事実及び証拠(甲一ないし七、甲一九および二〇、証人藍原雄介、被告本人)によれば、次の事実が認められる。

1  雄介は、本件交差点を西方向に向かって、原告車両を運転し、被告は、本件交差点を南方向に向かって被告車両を運転し、出会い頭に衝突したものであるところ、本件交差点は、被告車両の進行する道路の幅員が原告車両の進行する道路の幅員より明らかに広いものであり、かつ、原告車両が進行する道路には、本件交差点の手前で一時停止標識が設置されているものであるから、雄介は、本件交差点に進入するに当たり、一時停止し、左右の安全を確認して、被告車両の進行を妨害しないようにすべき義務があった(なお、被告車両が進行していた道路は、本件事故当時、地下鉄工事のため四車線のうち二車線が通れなくなっており、フェンスなどで囲いがされている状況であり、本件事故当時は、本件交差点において中央線又は車両通行帯等は設けられていなかったものであるから、優先道路とはいえない。)。

しかるに、雄介は右標識に従い一時停止したものの、雄介の進行方向側の歩行者用信号が青色であったことから、左方の安全確認を怠り、漫然と本件交差点に徐行しながら進入したことにより、本件事故が惹起されたものである。

2  しかし、被告も、制限速度時速四〇キロメートルのところ、被告車両を時速約五〇キロメートルを超える速度で進行させ、本件交差点の約一〇〇メートル手前にある補助信号機の青色表示を確認したものの、本件交差点に進入するに際し、その対面信号がすでに赤色に変わっていたにもかかわらず、その確認を怠り、また、進行方向前方を十分に注意してみていなかったため、本件交差点に先に進入していた原告車両の発見が遅れ、雨のため濡れていた鉄板の上で急ブレーキをかけたが間に合わず、かなりのスピードで原告車両の左側後部に被告車両前部を衝突させたものである。

3  被告は、前記補助信号が青色であり、本件交差点の信号と連動していたから、その対面信号も青色であったと主張するが、雄介は、本件事故当時、進行方向にあった歩行者用信号が青色であったことを確認していたこと、また、被告車両の反対方向から進行してきたバンの運転手が付近の住民に「被告の信号無視だよ」と言っていたこと、さらに、被告は、その供述において、本件事故当時、対面信号を確認していなかったことを自認していること、補助信号から本件交差点の信号まで約一〇〇メートル程度の距離があり、時速五〇キロメートルとすると約七・二秒程度の時間を要するが、客観的には、この間に信号が青から赤に変わる時間も十分にあったことからすれば、本件交差点の信号が、歩行者用信号が変わったことにより赤色に変わっていたものといわざるをえず、被告の前記主張は採用できない。

また、被告は、原告車両に衝突する二〇メートル手前で急ブレーキをかけ、衝突時は、時速一五キロメートルぐらいのスピードまで減速した旨供述するが、被告車両は、衝突の衝撃によりエアバッグが開く程の衝撃であったこと、比較的重量の重い原告車両(車種リンカーン)が本件事故による衝撃により約九〇度回転して本件交差点の南東側隅で停止するほどの衝撃であったことからすると、被告車両が右の程度まで減速したものと認めることはできない。

4  以上によれば、本件事故は、狭路でかつ一時停止規制がある道路を進行中の雄介の左方安全確認義務違反と、明らかな広路を進行中の被告の前方不注視(歩行者用信号と連動した赤信号の見落とし及び原告車両の発見の遅れ)と制限速度オーバーにより惹起されたものであるから、以上の事実を総合すれば、原告側の過失割合を六割、被告側の過失割合を四割とみて、原告について六割の過失相殺を認めるのが相当である。

二  争点2について

1  前記前提事実及び証拠(甲八ないし一四、一六の1ないし8、一七及び一八、鑑定の結果、証人雄介)によれば、原告は、本件事故により、次の損害を被ったことが認められる。

(一) 車両修理費 一六九万円

(二) 代車使用料

原告の家族は、本件事故で破損した原告車両以外にも車両を保有しているが、他の車両は家族で別々に使用していること、原告は、高価な茶道具を運搬するために、比較的頑丈な車を必要としていたこと、原告車両は、リンカーンであり、修理期間も一般の場合より長くかかることから、代車使用料としては、一四万一七五〇円が相当である。

(三) 車両牽引費 三万七八〇〇円

(四) 積荷の損害

積荷の損害については、仕入価格の合計は六六一万円であり、破損後の評価額が四〇〇万五〇〇〇円であるから、二六〇万五〇〇〇円である。

2  本訴の弁護士費用は、本件に現れた諸事情によれば、二〇万円が相当である。

3  以上によれば、前記1(一)ないし(四)の損害額合計四四七万四五五〇円の四割の一七八万九八二〇円に弁護士費用二〇万円を加算した一九八万九八二〇円が原告が本件事故により被った損害額と認められる。

三  よって、原告の本訴請求は、主文掲記の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一、六四条を、仮執行の宣言について同法二五九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 設樂隆一)

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